おばーちゃんは晩年の傾眠傾向が強かった。
高校生だった私が訪ねるたび、こたつの前にちんまりと正座してうとうとしていて、手の届くところにしまってあるガラス容器からゼリービーンズを出してくれて、ひとしきり話をしたらまたうとうとし始める。最期は久しぶりに我が家に遊びに来た翌朝、心臓発作で亡くなった。大学ノートに書きかけた日記には、「今日はまくちゃん…」とだけ書かれていたらしい。ウチに遊びに来たことを日記につけようとしてくれていたみたい。
注:「まく」は小さい頃飼っていた柴犬の名前。自分の呼び名は今後「まく」でいこ。
おとーさんもそんなふうに、だんだんとうとうとすることが増えていって、穏やかに人生が閉じていくものだと勝手に思っていた。
もっと早く気づくべきだったのだ。
急に傾眠傾向が強くなったこと。足元がおぼつかなくなったこと。好きな食べ物が変わり食事の量が減ったこと。車の運転やテレビのリモコン操作が危うくなったことなどが、何かのサインであることに。
今回おとーさんが転倒したことで初めて、過去にも何度か転倒があり、それらが例えば慢性硬膜下血腫を引き起こしている可能性に気がついた。
家でのびのびと振る舞っているおとーさんは、病院では借りてきた猫のように小さく丸まって、まさに高齢者然としている。あれ、おとーさんってこんなにおじいさんだったの?と改めて驚いてしまう。
今からCT/MRIの診断を聴きに行く。
頭痛がしてちょっと気持ち悪くて手足がガクガクする。
でもこれは私の役目だ。
ハッピーハーブを飲んで出かけるぞ。
がんばれ自分。